2014年2月25日 

会社の仲間と偶然流れ込んだ梅新「アサヒ・ビアハウス」の雰囲気に、わたしは一度ですっかり魅せられた。夏場ともなると満席になり、脚の高い小さな丸テーブルを囲んで飲む立ち席ですら隙間がないくらい盛況な当時のビアハウスだった。

私たちオフィス仲間が最初に行ったのがそんな時期で、ホールが最高潮になると、アコーディオンのビアソングに乗せて「むかで行進」が始まった。むかで行進は、前の人の両肩に後ろの人が両手を置き一列に並んで行進するのである。

アサヒ・ビアハウス
オフの日にビアハウスに遊びに行ったときのムカデ行進。後ろが我が親友、みちべぇ。その後には当時のAB社のおエラいさん、故高松氏、そして常連の杉やんと続く。ムカデ行進の音楽は「ビア樽ポルカ(ロザムンデ・ポルカとも言う)」を中心に数曲続く。(後記に案内あり)

ムカデ行進のトップに立ちタンバリンか角笛を持って座って飲んでいる人たちをこの列に誘い込むのは歌い手か常連の一人の役割だ。最高潮時には全員がムカデ行進に加わり店内の席を取り囲むようにして長蛇の列の輪ができ、気がつくと誰一人として席に座っている客がいなくなるほどだった。この最高潮の夜にわたしは初めて行ったのであった。見知らぬ客同士がビールと音楽を通じてひとつになるわずか数分の一体感であるが、これは本当に楽しかった。初めての客の多くはこのムカデ行進でアサヒ・ビアハウスの虜になる。わたしもその一人で、いつの間にか女だてらに度胸よく、一人で顔を出すようになった。

さて、女一人の出入りが珍しいことが手伝ってか、しばらく通ううちにまもなくフリーパスの常連にわたしはなった。と言うのは、ビアハウスへ行けば払わなくても生ビールを飲めるようになったということである。
  
なに、もう時効だから種を明かしてしまうと、当時の店長、塩さんやその他、立ち飲み席にいる常連さん達がおごりで差し入れてくれたのでした。(笑)そのお礼として常連のリクエストに答え、わたしはいつも「サン・トワ・マミー」を歌ってお返しをしていたわけで。
そのうちに、店長の塩さんと歌姫宝木嬢にスカウトされた形で、いつの間にかわたしは週に三回、6時半から閉店の9時まで、会社が退けた後アサヒ・ビア・ハウスの小さなステージで歌うことになっていた。

しかし、わたしがそこで歌うように要請されたのは、当然であるがこれまで自分がほとんど耳にしたことがない、しかもドイツ語の歌である。
どうする?英語ならなんとかなりそうだが、ドイツ語など、まして歌の基礎を習ったことなどないわたしにできるのか?楽譜は読めるし音感がいいのでメロディーならすぐ覚えられるが・・・今ならさしづめ、ネット検索してカタカナ読みで誤魔化しもきくだろうが、当時のコンピューターと言えば、我がオフィスの本社にあったようなアナログコンピュータがせいぜいであった。与えられたドイツ語の歌詞を手にわたしは正直、途方にくれたものだ。

アサヒビアハウスへ遊びに行く度に、歌い手の宝木嬢が歌い、ホールの聞き手が大いに盛り上がる好きな歌があった。

♪ダス・ギブツ・ヌア・アインマル
 あこがれの楽園に  夢見る喜び
 ただ一度  二度とない あわれ そは夢か
 春の日はただ一度  春の花もひととき


1934年のドイツの最高傑作と言われる「会議は踊る」の主題歌「ただ一度の贈り物」である。ナポレオン敗退後のヨーロッパをどのようにまとめていくか。オーストリアの名宰相メッテルニッヒが諸国の代表を招いて開いた、「会議は踊る、されど進まず」と言われるウイーン会議を舞台にしたオペレッタ映画である。
その会議に出席するため、ウィーンを訪れていた若きロシア皇帝・アレキサンダー1世に市井の人、手袋屋の娘クリステルが、皇帝差し回しの素晴らしい馬車の人となって皇帝の別荘へ向かいながら喜びを絶唱する、その時の歌が、

♪ヴァイン イヒ ラッハ イヒ
Wein' ich? Lach' ich?
トロイム イヒ ヴァッハ イヒ
Träum' ich? Wach' ich?
ホイ(ト) ヴァイス イヒ ニヒ(ト) ヴァス イヒ トゥー
Heut' weiß ich nicht was ich tu'.  


で、始まる「Das gibt's nur ein mal(ダス ギプツ ヌァ アィンマル)」、ただ一度の贈り物だ。

アサヒ初代歌姫こと我が先輩、宝木嬢が歌ったこの心躍る楽しい歌を彼女の雰囲気に併せてネット検索してみたのだが、どれも違う。一件のみ、比較的似たのがあったので後記に。
  
「ただ一度、二度とない、春の日はひととき、春の花もひととき」
人生もまたこの歌の如くであり。ただ一度の人生をこの歌のようにわたしも目一杯生きてみよう、せっかく転がり込んできた歌姫のチャンスだ、やってみようと単純なわたしはそう思い己を激励して引き受けた。
  
20代も後半、わたしはドキドキする胸の動悸を抱いて梅新アサヒ・ビア・ハウスの歌姫デビューをしたのである。
アサヒ・ビアハウス
歌い始めの頃、大先輩宝木嬢と。民族衣装を用意するお金なく、手持ちの服で了承してもらってました。ひどいなこのカッコ

さて、最後にこの「ただ一度の贈り物」についてもう一言。
宮崎駿氏のアニメ作品「風立ちぬ」の中で、この歌が使われているそうです。映画の中盤、軽井沢のホテでドイツ人がピアノを弾くシーンでこれが出てくるとのこと。下に歌を案内。宝木嬢が歌ったのと感じが少し違います。こう言っては何ですが、彼女の「ダス ギプツ ヌァ アィンマル」は本当に素晴らしかったです。



こちらは、アサヒビアハウスのムカデ行進のBGM。少し古そうですがこれがあの頃の演奏に一番近い。


梅新アサヒ・ビアハウスで歌うことになったいきさつが終わったところで、次回から愉快な常連さんたちにご登場願います。
では、みなさま、また!


にほんブログ村 海外生活ブログ ポルトガル情報へ blogram投票ボタン
テーマ:音楽
ジャンル:音楽
コメント
コメントを投稿
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事へのトラックバック
Click for Porto, Portugal Forecast 
ポルトガル ポルトの口コミ
ポルトガル ポルトの口コミ にほんブログ村 外国語ブログ マルチリンガルへ
にほんブログ村